PRIDE SCHOOL
【前半】JobRainbow 星賢人×TENGA 西野芙美 特別対談「PRIDE SCHOOLが目指すもの」
LGBTQ+が“自分らしいキャリア”を掴めるよう、同じ境遇の仲間達と高めあいながらロールモデルと出会える、日本初の「LGBTQ+向けオンラインキャリアアップスクール」こと「PRIDE SCHOOL」。
今回、第2回の開講を記念して、このスクールを支える株式会社JobRainbow CEOの星賢人さんとTENGA 国内マーケティング部 部長の西野芙美による特別対談を実施しました。
株式会社JobRainbow 代表取締役社長 星賢人
自身もLGBT(ゲイ)の当事者として、月間65万人がアクセスするNo.1 LGBTダイバーシティ採用広報サイト「ジョブレインボー」を22歳で立ち上げる。東京大学大学院情報学環教育部修了。Forbes 30 UNDER 30 in ASIA / JAPAN 選出。孫正義育英財団1期生。板橋区男女平等参画審議会委員として行政のダイバーシティアドバイザー。『LGBTの就活・転職の不安が解消する本(2020/3,翔泳社)』を出版。これまでに上場企業や自治体を中心とし、500社以上のダイバーシティコンサルティングや研修を実施。
株式会社TENGA マーケティング部 部長 西野芙美
株式会社TENGAマーケティング本部 国内マーケティング部 部長。早稲田大学文化構想学部卒業後、人材紹介会社、出版社での勤務を経て2017年に株式会社TENGA入社。「TENGA」「iroha」のほか、性の課題解決に取り組むブランド「TENGAヘルスケア」のブランドコミュニケーションを包括的に担当。
両社の出会い 〜LGBTQ+との関係〜
そもそも、どういう経緯でTENGAとJobRainbowは出会ったんですか?
この本、すごくわかりやすいんですよ!
SNS上でも「この本で就活に前向きになれました!」と反応が多く、嬉しいです。「就活ってこうしなきゃいけないよね」という常識・ルールを打ち破る一石を投じられたでしょうか……
一問一答の章で「入社後にトランスジェンダーであることをカムアウトしたら、虚偽記載だと言われませんか?」という質問を見た時には、「たしかに! その心配があるのか!」と。自分がつい意識の外側に置いてしまっていた問題に気づけました。
本の中でも「“完璧な理解”は難しい」と書かせていただきましたが、「私たち理解していますよ!」と言うこと自体が押し付けになりかねないですし、弊社が抱えている未知の課題はきっとたくさんあります。
にもかかわらず「LGBTQ+フレンドリーな企業」として紹介されていいの? とそわそわしました。
性のあり方って日本ではやけにタブー視されているじゃないですか。例えば、異性愛者が手を繋いでいても何も言われないのに、同性カップルが手を繋いでいると「うわ、ゲイカップルだ!」とやけに性的なものとして見られる……私は、ビジネスを通じてこういう社会を変えたくて、JobRainbowを立ち上げました。
なので、創業から一貫して、プロダクトを通じて社会にメッセージを伝え続けるTENGAさんには、親近感を抱いていました。
私がゲイだと気づいたのは、中学1年生の頃でした。男子校でみんなが「気になる異性」の話をする一方、自分は同性の友人が気になって。違和感を抱くうちに、周りから「オカマ」とか「オネエ」と言われはじめ、剣道部では「お前は女々しいからいじめられるんだ」と竹刀で殴られて。中学2年生の後半から不登校になりました。
でも、インターネットを通じて色んな人に出会い「同性を好きになる人は自分以外にもいるんだ」と知ってから、インターネット上ではカミングアウトしてのびのび過ごせるようになりました。ここから、少しずつ立ち直っていきました。
大学ではLGBTサークルの代表になったのですが、そこでトランスジェンダーの先輩が就職活動で困っているのを目の当たりにしました。
「エントリーシートの男/女はどちらに○をつければいいんだろう、女性に○をつけたら虚偽記載になるのかな?」「スーツってメンズ/レディースどっち着ればいいんだろう?」「カミングアウトしたら“あなたみたいな人の前例がありません”と入社を拒否された」など困難の連続で、彼女は就職活動を諦めてしまいました。彼女のように苦しむ人を減らすべく、JobRainbowを立ち上げました。
その際、「D&Iを推進している企業=外資系」というイメージを払拭して、国内の有名企業も取り組んでいるんだ、と安心してもらうために、TENGAさんを紹介させていただきました。
動き出すPRIDE SCHOOLプロジェクト 〜「メリットがないこと」に取り組む?〜
星さんからは、どのようなお話が聞けたんですか?
LGBTQ+の就労に関する話では、「企業の変わるべきところ」がたくさん挙げられます。
しかし、そもそもキャリア形成する機会を得られなかった当事者たちにまず必要なのは、スキルアップできる機会です。その機会がなかった理由は、周りの偏見・環境などと繋がっている……と初めて見えてきました。
「当事者支援」を考え続けてきたのに、知らないことが本当に多いな、と“無知の知”を痛感しました。
TENGAさんからお話をいただいた時も、多くの企業と同じだろうと思っていましたが、西野さんは基本的なことはもうご存知なだけでなく、虹色ダイバーシティとの交流も深く、「もっと本質的な課題を知りたい!」というスタンスが始めから見えました。
だからこそ、キャリア形成の件をはじめ、もっと根深い問題について話しました。そこでまさか共感してもらえるとは思ってもいませんでした。
もちろん、株式会社としてお金を稼いでいる以上、マネタイズ方法を考えることは大事です。でも、「儲からないからやめよう」では幸せになれるはずの人もなれません。TENGAには「皆に喜んでもらうために製品を作る」という社長の想いが浸透していますし、寄付金を使ったCSR活動としてチャレンジできるんじゃないか、と思いました。
当事者にとっては、ロールモデルがいると選択肢が増えますし、会社のわかりやすいPRにつながる一方、コストはあまりかかりませんから。
しかし、それを提案しても西野さんはしっくりきていない表情で。「“本当に”当事者のためになることって他にありませんか?」と聞かれ、一か八かで、温めていたPRIDE SCHOOLの構想をお話ししました。
話を聞いてからはマッハで取り掛かり、6月に企画をまとめて、8月にはリリース、10月のカミングアウトデーに開講……怒涛のスケジュールでしたね。
PRIDE SCHOOLの構想はいつからあったんですか?
同時に、JobRainbowのユーザーが増える中で「二極化」が深刻化していました。LGBTである/ない以前に職歴やスキルが十分あり、何社も選べるから「だったらLGBTQ+フレンドリーな企業がいいな」みたいなスタンスの層と、精神疾患により休職していたり、職に就けていなかったり、家族から家を追い出されて望まない形で働く層。
私は、後者の人が自分らしく生きることを支えたいんです。でも、後者に当てはまる人の中にも「ちょっと背中を押すだけで大丈夫な人」と「そもそもあいさつや日常のコミュニケーションを知らない人」がいて、社会人としてコミュニケーションができない人は、いくら企業がLGBTフレンドリーでも入社は難しくなってしまいます。
そんな「社会人として必要なスキルを満たしていない人」を、世の中は「自己責任」だと非難しますが、実は元を辿ると、そもそも社会の仕組みによって差別を受けているから仕事を得られなかったり、理解してくれない家族しかいない家を出るべく進学せず働いたり、という事態が起きているんですよね。
なら、それは社会の責任です。じゃあその格差をどう埋めたらいいだろうか……と考える中で「PRIDE SCHOOL」の構想が浮かんだのですが、資金・リソースともにJobRainbowだけでは厳しいな、と二の足を踏んでいました。